2013年 12月 21日
やられた!と、思ったこと。
薔薇の育種の最大の楽しみは名前を付けられること……。
僕はそう思っています。 勿論、あれこれ考えながら交配親に使う薔薇を選んだり、
花を選び、花粉を採取し……実際の交配の作業もワクワクする楽しさですし、
種を播き、丁寧で慎重な水やりの末、春先に双葉が顔を出した時の喜び……これもまた格別です。
でも、何といっても一番楽しいのは、
自分が作った薔薇にどんな名前をつけるか考えている時なんです。
さて、そんな変り者の僕ですが、矢張り皆さんと同じように、
秋の花が終わり、春の新芽の頃までの楽しみは、
各薔薇園から取り寄せたカタログを眺め、お迎えする新しい薔薇を選んだり、
去年の反省をふまえ、新しいシーズンにどのような庭にするかを考えること……。
カタログや写真集、図鑑を見る時のワクワク感は他に例えようがありません。
ワクワク&ドキドキは幾らあっても嬉しいものですが、
たまに驚愕のあまり椅子から落ちそうになることもあります(笑)
そう、僕の場合、自分の薔薇に付けようと思っていた名前が既にあったこと……。
今日の写真……数年前にパリ郊外のバガテル庭園の薔薇園で撮りました。
この写真を撮る少し前……僕の愛読書、皆さんもお持ちの、
オーストラリアのランダムハウスから出ている「Botanica's Roses」。
一年中、パラパラとページを捲り、あれやこれやと妄想を逞しくしていたんですが、
ある日、ページを捲る手がピタリと止まり、目を真ん丸に見開く出来事がありました。
な、な、な、な、なんと!大好きな女優、
シャーロット・ランプリングの名前が付いた薔薇を見つけてしまったのです……。
唖然、呆然、愕然……もう倒れるかと思っちゃった(笑)
まだ右も左も分からない少年が、
映画館の暗闇で観たリリアーナ・カヴァーニ監督の「愛の嵐」……。
少年の心にそれはそれは強烈な印象を残し、その後のどこか暗くて、
皮肉屋の性格を形成する要因になったのではないかと自ら分析します。
映画史上、最も美しい女優の登場シーン……。
「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リー、「陽のあたる場所」のエリザベス・テイラー、
「カサブランカ」のイングリッド・バーグマンと並ぶ、
「愛の嵐」のシャーロット・ランプリングの登場シーン……。
今は高名な指揮者の妻になっているランプリング扮するルチアが、
演奏会の後、ホテルのフロントで運命の男マックスと再会するシーン。
美しく正装に身を包んだルチア。鋭利な刃物を思わせるランプリングの瞳。
一瞬の出来事に千々に乱れる心……狼狽え怯え、過去の記憶が走馬灯のように押し寄せる様を、
北欧の澄んだ湖水のような淡い水色の瞳が物語ります。
そして収容所でオルガンに合わせて歌い踊るランプリングの怪しさ。
念願でした。実はファンレターにサインのお返事を戴いた少年時代。
それが捲ったページで脆くも崩れ去り、バガテルで、株は枯れてなかったものの、
地面にさしてあるネームプレートを見、実際にこの世に薔薇が存在することに打ち拉がれ、
とどめは親友たちと行ったパリの最終日の晩、予約してあったレストランの傍の花屋で、
実際にシャーロット・ランプリングの鉢植えを見た衝撃。
「やられた……。」と、思った瞬間です。
他にも京成バラ園の「しのぶれど」……素晴らしいです。
これほど日本らしくて素晴らしい名前があるでしょうか!
「一本取られた!」と、思いました。
最後はイングリッシュローズの「Tess of the d'Urbervilles」です。
毎年〜イングリッシュローズの新品種を楽しみにしていた頃。
美しいローズレッドのバラの名前を見て愕然としました。
「テス……おぉぉぉぉっ!今度はこう来たか!」
負けた……と、思いました(笑)「ダーヴァヴィル家のテス」……。
トマス・ハーディの小説のタイトルを薔薇の名前に持って来るとは!
映画も良かったですよね……3時間近い長尺なのだけれど、
ナスターシャ・キンスキーの美しさ、フィリップ・サルドの音楽。
オマケにピエール・ポルト・オーケストラの「哀しみのテス」なんて言う名曲も生まれました。
薔薇に勝ち負けはないけれど、やられた!と思った瞬間です。
人のことを羨んだりすることは全くないのだけれど、
「Charlotte Rampling」「しのぶれど」「Tess of the d'Urbervilles」……。
この3本の薔薇だけは脱帽でした。
20. 12. 2013
Benoit。
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