2011年 06月 08日
美しさと醜さは……。
「想像できないものを蔑む力は、世間一般に蔓延って、
その吊床の上で人々はお昼寝を楽しみます。
そしていつしか真鍮の胸、真鍮の乳房、
真鍮のお腹を持つようになるのです。磨き立ててぴかぴかに光った。
あなた方は薔薇を見れば美しいと仰言り、蛇を見れば 気味がわるいと仰言る。
あなた方は御存知ないんです。薔薇と蛇が親しい友達で、
夜になれば お互いに姿を変え、蛇が頬を赤らめ、薔薇が鱗を光らす世界を。
兎を見れば愛らしいと仰言り、 獅子を見れば怖ろしいと仰言る。
御存知ないんです。嵐の夜には、かれらがどんなに血を流して愛し合うかを。
神聖も汚辱もやすやすとお互いに姿を変えるそのような夜を御存知ないからには、
あなた方は真鍮の脳髄で蔑んだ末に、そういう夜を根絶やしにしようとお計りになる。
でも夜がなくなったら、あなた方さえ、
安らかな眠りを二度と味わうことは おできになりません。」
三島由紀夫「サド侯爵夫人」より抜粋。
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三島由紀夫作「サド侯爵夫人」から僕の一番好きな台詞です。
「サド侯爵夫人」から……と、言うよりは、
全ての戯曲の中から一番好きと言った方が正しいかもしれません。
勿論、世界中の全ての戯曲を読んだ訳ではありませんけれど……。
サド侯爵夫人 ルネの台詞……どうです、もしもあなたが女優なら、
偉大な名女優を相手に、豪奢な衣装に身を包んで、
こんな華麗な台詞を朗々と言ってみたいと思いませんか?
上質の絹に縫い付けられたラインストーンの煌めき。
金糸、銀糸で施された豪奢な刺繍のような言葉の修飾。
天上に煌めく大伽藍のキラ星のような台詞の数々……。
名だたる俳優がこれらの台詞を言いたくて仕方ないのが良く分かります。
芝居とは「台詞」です。「欲望という名の電車」と「サド侯爵夫人」。
そう、女優に限らず、女装をしてまでも、
男優がこぞってこれらの戯曲をやりたい理由がそこにあります。
また、全ての役者が演じてみたい戯曲であると共に、
これだけ演じる役者を戯曲の方が選ぶのも珍しいでしょう。
達者な人がどんなに忠実に演出家の指示通りに演じてもダメ。
演じる役者の大きさと品格が問われてしまうのです。
「薔薇と蛇」「兎と獅子」「真鍮と乳房」……。
美しいものと醜いものが表裏一体と言うことを三島は知っていました。
どんなに美しいものも、醜さの上に1枚皮を被っただけだと言うことを。
「綺麗は汚い、汚いは綺麗。さあ飛んで行こう霧の中、汚れた空をかいくぐり。」
マクベスの3人の魔女の有名な台詞にもあります。
見掛の美しさに騙されてはダメ。一見、汚いものの中にも美しさはあります。
車窓から眺める景色は、いつの間にか薔薇から紫陽花へと変わっていました。
今年の薔薇のラスト・シーンはヒドかった……大雨に大風……。
何だか消化不良に感じる人もいるかもしれませんね。
折角、慈しみ育てたのにね……雨でグシャグシャになった、
薔薇の花柄を片付けるのは悲しいものがあります。
がっ!しかし、よく考えてみて下さい。
グシャグシャになった花弁、萎れて精気がなくなった花弁、
暑さで縮れた花弁……そんなに忌み嫌うほど汚いですか?
良ぉ〜く見てみましょうよ。その萎れた花弁もまた薔薇なんです。
ゴミ箱に捨てる前にチョッと着飾らせてあげて写真を撮ってみませんか?
先ずはお気に入りの容器に入れてみましょう。
大事にしている小物と一緒に撮影って言うのはどうですか?
あなたの魔法にかかって萎れた薔薇も再び頬を赤らめるかもしれません。
あなたの演出によって再び鱗を光らせるかもしれません……。
僕はことあるごとに言っています。
薔薇は蕾から5分咲き、満開の頃は勿論、
凍えるような冬の寒空に葉を落とし、
刺だらけの姿をそのままさらした薔薇もまた美しい……。
そう、薔薇は一年を通して、全ての段階で美しいのです。
満開を過ぎ、朽ちる間際の薔薇の壮絶な美しさ!
昔は大嫌いだったゴールドの額縁に飾って写真を撮ってみました。
薔薇は全て僕のオリジナルの薔薇。どうですか?
萎れて藁色になった精気ない花弁が何やら黄金の煌めきを帯びていると思いませんか?
花弁、1枚、1枚が光り輝く鱗に見えませんか?
美しいもの、醜いもの。
全ては表裏一体、美しいものもその薄皮を剥がしてみれば……です。
08. 06. 2011
Benoit。
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| 2011-06-08 00:00
| Raindrops on Roses