女房元気で留守がいい。

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 「あっ……しまった!」

三枝子が大事にしている薔薇のテラコッタを倒してしまった……。
岳夫は今日はチョッと飲み過ぎだとは思ったものの、
どうせ三枝子は2泊3日で仲間と薔薇ツアーの真っ最中。
明日は日曜で休みだし、会社の同僚に誘われて、もう一杯、もう一杯……。
ついつい飲み過ぎてしまったのだ。

岳夫はそっとしゃがんで様子を窺おうとしたが、
酔っているせいかチョッと足下が心もとない……。
エイっと腰を落としたが、今度はお尻で何かを折る音がした……マズい。
ポキって……この世の何よりも嫌な響き、もう目の前が真っ暗だ。
辺りは暗くてよく見えないので、取り敢えずテラコッタを起こして、
明日の朝、様子を見ることにした。

翌朝、昨日のテラコッタを見て愕然とした。
そろそろ咲き始めそうな枝が一本、見事に付け根から折れていたのだ。
お尻で折ったのは房になって付いている薔薇の蕾だ……。
三枝子の芝居がかった金切り声が聞こえてくるようだ……。
近所に響き渡る三枝子のソプラノ……脇の下に変な汗が出てきた。
さらに岳夫を愕然とさせたのは、テラコッタの縁が少し欠けてしまっているのだ。
ボ、ボ、ボ、ボンド!ボンドで貼り合わせればいいじゃん!
だが、欠片はどこにも見えい……アッ!そう言えば夕べ足下で何か鈍い音がしたのは……。
岳夫は焦って欠片を自分の足で粉々に踏み砕いてしまったのだった。

 「あぁ……もうダメ。絶対に許して貰えない……。」

この前、ゴルフクラブで素振りをしていてツル薔薇の枝を折った時の代償は、
三ツ星レストランのディナーとカルティエの指輪だった。
ディナーは兎も角、枝一本でカルティエだと?!
どうしよう、どうしよう……このウィッチ、ウィッチ、ウィッチブレード?
ウィッチ何とか言うイギリスのテラコッタを三枝子が大事にしているのは重々知っている。

 「安物よ!」

と、三枝子は口では言うものの、扱いが他のテラコッタとは全然違う。
そう言えば、このテラコッタを買った後、オレにポロシャツを買ってくれたじゃないか……。
そこはかとなく感じる薄気味悪さは三枝子の後ろめたさの現れなのだ。
それに岳夫は付き合わされた園芸店で、偶然、値段を見てしまったのだ。
この小ささでこの値段って言うことは、三枝子が買ったテラコッタは一体!
オレのこずかいで幾つ買える?唖然、呆然、愕然としたのを覚えている。
しかも三枝子は何でもシンメトリーに置きたがるクセがある。
何でも、倍、倍でモノが増えて行く。倍、倍で出費が嵩んで行く……。
これを知ったら狂乱の修羅場と化すことは火を見るより明らかだ。
当分、口も聞いて貰えないだろう。それどころか家に入れて貰えないかも。
真っ白になった頭で考えても隠蔽工作、アイデアなんて浮かばない。
取り敢えずこぼれた土をテラコッタに戻し、下を掃き掃除した。
何か妙案はないものか……枝が折れた部分とテラコッタが欠けた部分は同じ位置なので、
その部分を反対側の薔薇の茂みの方に向けてみた。

 「お……なかなかいいかも。」

両サイドのテラコッタを少し動かし、名前も知らない草花を、
折れた枝の方に寄せ、少し弄ったら何とか見られるようになって来た。
あとは運命を天に任せるのみ。どうせ帰宅は明日の深夜だ。
翌日も朝から近所の仲間とどこかの薔薇園で開催される、
何とか言う先生のガイドツアー?とらやに行くらしい。
三枝子はあちこちの薔薇園で開催されるガイドツアーや講習会、イベントに欠かさず出席する。
写真の講座もだ。先生、師匠の類が一体何人いることか。
その割には薔薇をバンバン枯らすし、写真の腕前も一向に良くならない。
栽培方法、写真の撮り方が全然違う人たちに習って何が身につくものか……。
岳夫は喉元まで出かかった台詞を何回飲み込んだことか分からない。
元々、三枝子にはセンスというものがないのだ。
美しい庭を見ても感激こそすれ、それを自分の庭に応用出来ない。応用力ゼロ!
まぁいい、それで三枝子がご機嫌ならお安いものだ。
どこぞの韓流のタレントに入れあげて家を出てしまう女たちよりはマシだ。
それにこの薔薇のシーズンは気持ち悪いくらいにオレに優しい……。
「おはよう!」「お帰りなさい!」……声が半音上がっている(苦笑)
少しは遅い帰宅や外泊に後ろめたさを感じているらしい。

偽装工作がうまく行ったのと、毎年のこのシーズンの、
三枝子の行動を考えたら何だか気が楽になってきた。
どうせ自分の家の薔薇なんてロクすっぼ見もしないのだ。
ただ新しい薔薇を持っていたいだけなのだ。名前すら覚えたためしがないし(苦笑)
三枝子が気が付く頃には折れた部分も乾き、欠けた部分も周りと馴染むに違いない。
念のため、もう一度、欠けた部分に苔と土を塗っておこうか……。
そうだ!ヨーグルト、ヨーグルト!冷蔵庫にヨーグルトがあったハズ。
ヨーグルトを塗るといい感じに苔むすと三枝子が自慢げに言っていたっけ……。
自分の自慢の一言が夫の犯罪の隠蔽工作に使われると露程も思うまい……あはは!

家に入った岳夫は冷蔵庫からヨーグルトを取り出し、
机の上の携帯で会社の同僚で近所に住む親友の泰彦にメールを打った。

 「おはよう!全て予定通りです。貰い物だけどワインもあるよ!
  簡単なつまみ作るからビールよろしく!」

泰彦の女房もウチの三枝子と一緒だと聞いた。
今日は思い切り飲むぞぉ!はぁ……ほんの束の間のやすらぎの時間。
こんな時は精々、羽根を伸ばさなきゃ。


女房元気で留守がいい……。


04. 06. 2014


Benoit。


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by souslarose | 2014-06-04 00:00 | Raindrops on Roses

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