匂いと香り……。

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ようやく秋らしい天気が続くようになりました。
「New Roses SPECIAL EDITION for 2011」が好評の内に発売になっています。
今、日本で手に入る人気の薔薇を全て網羅し、
さらに「薔薇の香り」の専門書としても読み応えのある内容になっています。

さて、今日のタイトルの「香りと匂い」……。
お気付きだと思いますが僕は余程のことがない限り「香り」は使いません。
これには僕のこだわりとチョッと天の邪鬼な部分も(笑)
皆さんにもう一つのブログのタイトル「匂いのいい花束。」をお教えすると、
必ず「なぜ香りじゃなくて匂いなの?」と、聞き返されます。
この「匂い」と言う言葉を使う事に関しては何の迷いもありませんでした。
これは、ブログのタイトルを三島由紀夫の傑作戯曲、
「鹿鳴館」の台詞から戴きましたから変更の余地はありませんし、
三島由紀夫のこだわりも感じられて素晴しいと思うからです。

では、なぜ文中に余程の事がない限り「香り」と言う言葉を使わないのか?
改めて辞書を引いてみると……。
「香り」の所には「よいにおい。香気。」とあります。
それから、次に「匂い」を辞書で引いてみると……。
「そのものから漂って来て嗅覚を刺激するもの。」とあります。
文章を書く上で厳密な分け方をしている訳ではありませんが、
「香り」が鼻に感じる心地よい刺激に付いて用いられるのに対し、
「匂い」は、どうやら、善し悪しに関わらず、好ましい、不快など、
鼻で感じる全ての事に対して使われるようです。
それから「香り」はそこはかとなく漂って来るいい匂いに対してのみ使い、
「匂い」と言うと、何やらそれ自体から立ち上って来る匂いのように感じます。
何も今初めて語られる事ではありませんが、この世界のもの全て、
物事には表と裏があり、綺麗なものの陰には汚い実像があり、
美しいものも角度を違えてみれば世にも恐ろしい裏の姿を見せるのです。
物事はその二面性ゆえ美しく輝くのではないでしょうか。

「マクベス」の魔女の台詞「綺麗は汚い、汚いは綺麗」ではありませんが、
物事は、美と醜、明と暗……その二面性ゆえ美しく輝くのだと思うのです。

綺麗な薔薇の匂いは勿論、素晴しいけれど、朽ちた薔薇のすえた匂い。
新鮮な時は勿論だけれど、腐りかけた果物や肉の何とも言われぬそそる匂い。
太陽を一杯に浴びた猫のお腹の匂いと、威嚇する時に出す独特の匂い。
街角ですれ違った見目麗しき人……実は一部の隙もなく美しく化粧を施され、
香水と仕立てのいい服で誤魔化されているかもしれません。
スポーツで真っ黒に日焼けした健康で爽やかな顔とこぼれる白い歯……。
そして、心のどこかで期待する汗の匂い……。

そんな、簡単には割り切れない、そして、見る人、読む人の受け取り方で、
全く違って来る感覚を大事にしよう、どちらにでも取れるようにと思い、
「匂い」と言う言葉を余程の事がない限り心して使うようにしました。
それから、匂いには「嗅ぐ」ではなく「試す」を使いたいです。
「匂いを嗅ぐ」ではなくて「匂いを試す」……よほど優雅だと思いませんか?


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一方のブログにタイトルを拝借した三島由紀夫も好んで「匂い」を使いました。

  サド侯爵夫人ルネ 「薔薇を愛することと、
                薔薇の匂いを愛することと分けられまして?」
  モントルイユ夫人 「莫迦をお言い。それは薔薇が感心にも、 
                薔薇にふさわしい匂いを持っているからだわ」

なんと言う素晴らしい台詞でしょうか。
「サド侯爵夫人」のなかには、金糸銀糸で刺繍された豪奢な衣装のような、
また、幾重にも縫い付けられたビーズやラインストーンのような華麗な台詞が、
天満の夜空を彩るキラ星の如く散りばめられています。
一つ一つ丁寧に刺繍され紡がれた言葉の大伽藍……。
偉大な俳優が朗々と台詞を言うに相応しい宝石のような言葉……。
それらの台詞を言葉で表すとしたら……矢張り「匂いのいい言葉」だと思うのです。
美しいものと醜いもの……三島由紀夫はそんな世の中の綺麗ごとの絡繰り、
皆が絶賛する美しいものが、実は、醜いものの上に被さっている、
皮一枚にしか過ぎないのだと言う事を知っていました。
そんな尊敬する三島由紀夫に敬意を表して「匂い」なのです。


今日の写真は「New Roses SPECIAL EDITION for 2011」と「Bella Donna」。
もう1枚は、先日お目にかけた満開の「Bella Donna」が咲き進み、
朽ち果て散り行く寸前の1枚……この期に及んでまだなお匂うのです。
それは決して「香り」ではなく「匂い」なのです。


22. 10. 2010


Benoit。


※この記事は今までの「匂い」に関する幾つかの記事を纏め、
 加筆修正したものです。

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Commented by Noir-Z at 2010-10-21 17:41
Benoit。さま

こんばんは。肌寒い夕暮れですね。
靄がかかったような薄紫の雨の夕暮れ。
『Bella Donna』にもそういったシチュエーション。
なんだかとても映える気が致します。
仰有るように匂いに関しては「嗅ぐ」とは使いたくありませんね.笑
僕は『匂い』というものは生理的に働きかけてくるものだと思います。
心地よいものもあればそうでないものもありますね。
ですから初めてお会いした炎天下でブログのURLを教えていただき
小躍りしながら胸をときめかせ拝見した際にも『匂いのいい花束』。
そのブログ名には何の違和感も感じませんでしたよ。
素敵だと思いました。
「New Roses SPECIAL EDITION for 2011」も慎んで拝見させていただいた次第です。まだまだ沢山知らないことがあります。
経験していないことも...体感していなことも沢山ありますね。
僕は今、自分の薔薇の嗜好を改めておさらいしています.笑
枝が剛直であっても横ばりであっても何処か良い何かを持ち得ている
そして薔薇を愛する皆さんがそれぞれに愛着を持って迎えるに至る。
自分の嗜好はさて置いて...素直に客観視しています。

G d D
Commented by Noir-Z at 2010-10-21 17:41
『Bella Donna』が美しく咲いたらいちばんにお知らせいたしますね。

三島由紀夫氏は僕も10代〜20代の頃にむさぼるように読み耽り
一時は好きな作家でしたが或る日を境に興味がなくなりました.笑
反対意見はこうした場では述べませんヨ.笑 ご安心を^^
傑作ばかりを残した偉大な作家さんのように捉えられていますが
ズッコケもかなり多いと思うんですよね。生意気ですけどね.笑
それに氏のあの徹底した、時には滑稽にさえ見える自意識過剰ね.笑
それにしても『Bella Donna』はどの開花ステージでも見飽きる事がありません。今回のお写真もとても素敵です...。

G d D
Commented by souslarose at 2010-10-21 19:44
G d Dさま。
こんばんは。メッセージどうもありがとう。
そう、ようやく「らしく」なって来ました。でも、ここ数年の不順な気候で本当の秋がどんなだったか遥か遠い昔の記憶……チョッと動くと汗を掻きますが、程良いヒンヤリ感がいいですね。でも皆、何故「涼しい」と言わず「寒い」って言うんでしょう?その細かい表現こそ日本人なのに……幾らファッションとは言えマフラーぐるぐる巻きはまだ早い(苦笑)そう「匂い」には「嗅ぐ」はダメ。特にいい匂いの時には使いたくありません。臭い物の時には「嗅ぐ」でいいけれど……是非、使い分けたいですね。香水の調香師って「ネ」って言うんでしたっけ?彼等はいい匂いだけではなくて悪い匂いにも精通しなければいけないそうですね。人間って一体どれくらいの匂いを嗅ぎ分けられるんでしょうね?「New Roses SPECIAL EDITION for 2011」を見てスッカリ浦島太郎になっている自分を発見しました(笑)ここ数年、薔薇を買い控えていましたから。今更、目移りどころかどこから手をつけていいやら……。

Benoit。
Commented by souslarose at 2010-10-21 19:51
G d Dさま。
続きます。僕、三島由紀夫は全部読んでいる訳ではないのです。
結構、肝心な作品を読んでいなかったりしますが、「サド侯爵夫人」「禁色」「仮面の告白」……強烈なのを読んじゃいましたからね……その印象が強いのです(笑)もう少しして時間が出来たらゆっくり全作品読破してみたいと思います。傑作ばかりの作家なんていないんじゃありませんか?ヴァン・ダインでしたっけ?一人の作家が書きうる傑作は6作まで(7作?)って言っていて自分も6作以降は駄作だったの……そこへ行くとクリスティは矢張り凄い!……クリスティは長くなるからまた今度にして(笑)素晴らしい神からの「ギフト」って決まった数しかないのでしょうね。神からのギフトがない僕なんかどうしたらいいのでしょう(笑)「Bella Donna」……いいですよぉ。作った僕が言うんですから確かです!

Benoit。
Commented by アイリーン at 2010-10-21 22:15 x
ブノワ。さん、こんばんは。
香りと匂い、確かに違いますね。

散る間際のBella Donna迫力がありますね。
私の育てているBella Donnaもやっと秋のお顔を見せてくれました。
楽しみにしていた蕾をホソオビに食べられてしまい
無事だった一輪を撮りました。
ブノワ。さんとは違う感じで撮れたと思いますので、見ていただけたら嬉しいです。
つい先日までテニスの写真を撮っていたので、マクロレンズの扱いが難しくて、困りました。
Commented by at 2010-10-21 23:16 x
Benoit。さん、こんばんは。

「New Roses」、近年の中では、今年のが一番好きです。
三島由紀夫、な~んにも印象に残らないものと、文字が躍りだしてくるのものと極端に分かれるように思います。
マクベス!土曜日にマクベスのリーディングがあるので聞きに行こうと思っています。

ふと、今思いましたけど、ブノワ。さんの薔薇って、そこはかとなく三島の匂いがしますね!
Bella Donnaは、枯れてゆく感じがまったくなく、朽ちてさえ匂うあたり、緑川婦人(黒蜥蜴)もお気に召しそう!
Commented by raretaste at 2010-10-22 00:22 x
私も三島由紀夫は全部読んではいません。何だったかな、ああ、もうやめようと思ったきっかけがあったような気がします。
さておき、単純に娘の名からかおり(香)を副題に使ってはいるのです。(ま、匂いを名にしているのは匂宮くらいでしょうが)彼女は私達に、晴れの香りを運んできてくれました。娘は色んな匂いを持っていますが、私にとってはいつでも良い匂いを感じる存在であることは間違いない様です。
ブノワ。さんの言葉は、いつも自分に置き換えた時にどうなるか考えてしまう・・・そうだな、嗅ぐよりも先に脳で感じるものが、私にとっての匂いでしょうか。それは、鼻からの刺激だけではないかもしれません。
Commented at 2010-10-22 11:10
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2010-10-22 11:12
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by souslarose at 2010-10-22 21:22
アイリーンさんへ。
こんばんは。お元気ですか?メッセージどうもありがとうございました。拝見いたしました!綺麗に撮れていますねぇ。でも、本当に不思議、たった1本しかなかった苗がどんどん増えて、皆さんのお宅で同じ花を咲かせるんですからね。美しく撮ってくれて本当にありがとう!望遠と接写じゃ勝手が違うでしょう?(笑)どちらも抜群にこなすアイリーンさんって凄いですね。秋の「Bella Donna」どうでしたか?満足なさいましたか?来年は大きくして沢山、沢山、咲かせて下さいね!

Benoit。
Commented by souslarose at 2010-10-22 21:35
raretasteさんへ。
こんばんは。いつも温かいメッセージどうもありがとう。
raretasteさんのハンドルネームと娘さんのお名前の諸々……なんだかほんわか温かい気持ちになりますね。本当に大事な、大事な……こちらまでいい気持ちになりました。掛け替えのない人(もの)……raretasteさんは宝物を沢山お持ちですね。三島由紀夫は読んでいるといきなり飽和状態になる感じがします。言葉が華麗で手が込んでいるからアップアップになっちゃうのかなぁ……僕もある時期からパッタリと読まなくなりました。でも、今だからこそ一から読み直してみるのもいいかも……そんな風に思っています。僕の言葉なんていい加減ですよ。小学校の通信簿の国語の作文のところに「×」がついていましたから。でも、出来る限り美しい言葉で、省略言葉は使わない……そう決めています。

Benoit。
Commented by souslarose at 2010-10-22 21:35
碧さんへ。
こんばんは。いつもメッセージどうもありがとう。
緑川夫人……気に入ってくれるでしょうか?三島の匂いだなんて滅相もない。でも、大好きな三島由紀夫に僕の薔薇を見て貰いたかったなぁ。なんて仰言るでしょうね?「マクベス」のリーディングですか……何だか楽しそうじゃありませんか。感想を教えて下さいね。「New Roses」は年々、凄い事になって来ていて。とてもパラパラって言う訳には行きません。一ページ、一ページ、ルーペでもって……そんな感じですよね。秋の夜長、「New Roses」でチョッと勉強するつもりです。

Benoit。
Commented by souslarose at 2010-10-22 21:54
頬をよせる人へ。
こんばんは。ご丁寧なメッセージどうもありがとう。
4品種とも育てて下さっているとか……趣味で始めた交配が陽の目を見る事になり、こうして皆さんに可愛がっている事を聞くと、作った僕としてはこの上ない幸せを感じます。「Remi Chang」は残念かな、国際バラとガーデニングショウの時は色が全然違いました。この春の気温の低さで開花が遅れ、温度をかけたため随分と薄くなりました。でも、その素晴らしい匂いだけはそのまま……驚かれた方が沢山いました。横張りの樹形って何だか憎めませんね(笑)そっちに伸びるかい!思わず笑っちゃいますが、土地がない僕等にとってはお行儀のいい直立性の薔薇が一番なんですけどね。環境が変わると薔薇は激変します。暫く楽しみじゃありませんか?「禁色」ですが、一時期ハリウッドで映画化の噂がありました。悠一候補は何と当時のロブ・ロウだったそうですよ!日本版は裕一に沖雅也、鏑木信孝に仲谷昇、鏑木夫人に新橋耐子、恭子に萬田久子、康子に大竹しのぶ……僕もあれこれ考えながら読んだものです(笑)今だったら鏑木夫人は麻実れいさんでもいいかな……。

Benoit。
Commented by souslarose at 2010-10-22 22:02
給仕さんへ。
こんばんは。メッセージ恐縮です。
スッカリご無沙汰ですね。お元気ですか?
谷崎潤一郎で言うと「細雪」……もうやれる女優がいませんね。皆、小粒!今にして思えば、市川崑の「細雪」って凄い配役でしたね。長女の鶴子、最初は山本富士子だったとか。ピンチピッターの岸惠子はバタ臭さをよくあそこまで消して大阪の女を演じていました。佐久間良子の豪華、吉永小百合、演技開眼。僕は妙子は山口百恵が面白いと思っていたんですが、それではまた違った「細雪」になっちゃいますね(笑)クリスティの凄いところは、良くもあれだけのトリックを生み出したって言うこと。オリジナルのトリックが沢山ありますもんね。早くお目に掛かりたいって僕じゃないのね?(笑)「Bella Donna」でしたか……冬はさらに長持ちして楽しませてくれる事請け合いです!

Benoit。
by souslarose | 2010-10-22 00:00 | Under the Rose | Comments(14)

Let's talk about roses。


by ブノワ。
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